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裁判所とクレジットカウンセリング

借金をつくった原因のなかにパチンコや競馬などのギャンブルがあったり、ぜいたく品の購入があったりしたとき、はたして免責申立がすんなり認めてもらえるのか問題になることがある。日弁連による破産申立手続についての全国実態調査によると、そのような浪費・ギャンブルを原因とするものは少なく、大半が生活苦によるものとされている。しかし、破産申立に至るまでの借金の原因は、実はさまざまなのであり、決して失業や低賃金そして病気などからくる「生活苦」を補うものばかりとはいえない。「大牟田しらぬひの会」による原因調査は前述のとおり、相談カードに丹念にあたってつくられた資料であるだけに、きわめて信頼性の高いものであるが、そこでは前述のとおりギャンブルと浪費を合わせると22~23%ほどを占めている。

わが国の改正前の破産法によると(第366条の4第1項)、裁判所は破産者から免責申立があると必ず破産者を審尋しなければいけなかった。そして大量処理の便法のために、集団審尋と称する機会が設けられた。裁判官はこのとき、破産者(債務者)から個別事情を聞き出す(審尋)というよりむしろ、二度と破産手続を利用しないですむように生活習慣を変えるよう、法廷の傍聴席に座らされた破産者に対して法壇から呼びかけるのを常としていた(最近は、この集団審尋はほとんど行われていない)。

破産法の改正と前後して、ギャンブルや浪費が借金の相当部分を占めるとき、集団審尋によらず、個別に任意の積立・配当を裁判官から指示されることがあった。これをさらにシステマティックにしたのか「少額管財方式」である。免責がすぐに認められそうもないとき、破産管財人から本件ではいくらと積立が命じられ、その履行を完了すると免責決定を受ける。これには「小規模管財」ないし「簡易管財」という名称がついている。破産管財人は、積立がきちんとなされているかどうかを確認する。免責不許可事由があっても、一定額の積立をさせて按分弁済することで裁量免責からなされてきた。

アメリカ連邦破産法の改正

2005年、アメリカの連邦破産法が改正され、クレジットカウンセリングと債務者教育プログラムが取り入れられている。すなわち、2005年改正法は新たな制度として、「第7章 手続申立時におけるクレジットカウンセリングと免責付与前の債務者教育」(以下、第7章手続)を導入した。この第7章手続は、日本の同時廃止型の破産手続に相当するものである。第7章手続申立に際して、債務者は、申立前180日以内に、連邦管財官が承認した非営利のクレジットカウンセリング機関による個別またはグループでのカウンセリングを受けていない場合には、倒産手続の申立適格を欠くとして申立が却下される。法改正の結果、申立件数は前年比2割減となっていて、それなりに目的を達しているようである。

当然のことながら、面談によるカウンセリングを受けている人は前年を上回っている。クレジットカウンセリングは、電話またはインターネットで受けることも可能であるが、新たに設けられた第111条の定める基準に合致するものでなければならない。アメリカにはCCCSというNPO組織の消費者クレジットカウンセリング機関が1,000ヵ所以上もあり、そこが消費者から金銭問題の相談業務を行っている。その統括組織がNFCCという機関で、カウンセラーの認定や教育、相談機関の認証、研究、教育プログラムの開発などを行っている。債務者は、破産手続の申立時に、クレジットカウンセリング機関が発行するカウンセリングを受けたことの証明書とその当該機関が作成した債務返済計画を提出しなければならない(第521条)。

そのうえ債務者は、手続開始後も、連邦管財官が承認した個人の債務者教育コースを終了しなければ、第7章手続および第13章手続での免責を得ることができない(第727条)第13章手続とは、日本でいう個人版民事再生手続に相当するものである。この法改正の目的が、破産激増の状況をふまえて、その抑制にあるとすれば不当というべきである。ただし、債務者に対してカウンセリングが必要なことも明らかであり、それが有効に機能しているめであれば、相応の評価はできる。したがって、カウンセリングの場が家計管理の訓練の機会となり、悩める心の受け皿になりえているのか、その実情を知りたいものである。

ところで、アメリカでは破産申立原因の2割が医療費負担に耐えかねてのものであるとの報道がなされている。この場合には、家計管理の訓練も現実にはあまり意味をもたないであろう。また、アメリカでは悪徳カウンセリング機関が暗躍しているという指摘もある。多くの相談者が悪徳カウンセリング機関から搾取されているとして社会問題になった。連邦取引委員会(FTC)がカウンセリング機関に対して訴訟を起こしたほか、いくつかのカウンセリング機関が倒産したどいうことである。

「グリーンコープ生協ふくおか」の生活再生事業とは

グリーンコープ生協ふくおかの生活再生事業が2006年8月に始まってから、2009年9月までに面談した人の数は3,254人にのぼっている。面談した人の4分の1ほどは過去に債務整理を経験しでいた。そして多くの人が貸付を希望した。セーフティネット貸付は多重債務を予防するため、お金に困ったときの最初め相談窓口として、借金を抱えて支払が困難になったときの債務整理のための相談窓口になっているほか、債務整理が終わった後の安心できる相談窓口として、債務整理のための借換えが必要ながらほかを頼れないときの相談窓口になっている。ただ、貸付未了のまま相談終結となるケースも21%に及んでいるので、時間を置いてあらためて連絡をとって面談を受けるよう努めている。

そのため、相談窓口とセーフティネット貸付の窓口はできるだけ同一の相談室で行うようにしている。多重債務相談では1時間~1時間半の時間をかけて、借金を抱えて悩んでいる人にしっかり寄り添いながら家計の収支状況や家族の状況把握に努める。現状を正確に認識したうえで、本人から希望をよく聞き取り、債務整理の方針を一緒に考える。家計表をつくる過程で、本人が家族の人生設計を描き、それに基づき今後5年間の家族全員の収支がみえる家計収支表を作成してもらう。そめとき、家族全員が認識を共有することを重視する。そのためには、相談窓口が相談者と十分に信頼関係を築いておく必要がある。貸付はそれを前提として判断され実行される。

そして、この貸付については弁護士会、司法書士会、法テラスなどの公的相談窓口と連携が当然に必要となってくる。同時に、債務整理と並行して貸付がなされることも当然である。債務整理するにしても、まずは当面の家賃滞納を解決しておかないと住居を失ってしまう、病気なのに健康保険料を支払っていないため保険が使えないという人も少なくない。さらに債務を整理したものの、その後の生活が成り立たない人がいる。このような人々に対してセーフティネット貸付が求められているのである。この貸付金は限度額150万円、年利9.5%となっている。

貸付金の使途は家賃、光熱費、医療費などの生活関連が42%、教育費が19%と、この2つだけで6割を占める。グリーンコープ生協ふくおかの場合には、前述のとおり福岡県から業務委託を受けて予算措置もとられているが、同じ事業を展開し始めた熊本、大分、山口については自治体の支援がなく独自で進めているため、3,000万円前後の赤字を自ら負担している、いわば身銭を切っている状況にある。セーフティネット貸付の必要性は明らかであり、これを生活協同組合だけに任せておいていいはずがない。銀行や信用金庫といった一般金融機関においても取扱いをぜひ検討し、具体化すべき課題だと思われる。ただし、そのときに貸付を急ぎ、目先だけの支払可能額を簡単に算定してしまうのではなく、相談窓口においてじっくり生活再生の方策をたどることが不可欠である。

グリーンコープ生協ふくおか

福岡県内に展開する「グリーンコープ生協ふくおか」(組合員17万人。出資金72億円。貸付高290億円)は、消費者の共同購入事業とあわせて、地域福祉事業にも力を入れて取り組んでいる。グリーンコープ生協ふくおかが、多重債務問題に関心をもち検討を始めたのは2004年暮れのこと。ホームレスの増大を防ぐための方策を検討したことがきっかけだった。それは、①ホームレスの6割は多重債務を抱えていること、②福岡県は労働人口に対する自己破産者め割合が全国1位を占めていること、③生協組合員の1%は食料品を中心とする商品が支払えない困窮状態にあることなどが、あるNPOの調査で判明したことによる。

生協がこの問題に取り組むことへの抵抗も当初は強かったようだが、1年半もの検討を続けた結果、①多重債務はもはや個人の問題というより社会的な課題となっていること、②家計破綻の立直しは行政任せにせず生活者の視点が必要であること、③債務整理だけでなく多重債務の予防と予後のサポートも課題とすることなどを確認しで、「金銭教育事業」「消費生活支援事業」「生活再生相談事業」「生活再生貸付事業」の4事業が一体となって有機的に連携・機能する生活再生事業を2006年8月にスタートさせた。この生活再生事業は共済事業(相互扶助)の一環として、全国に先駆けて初めて認可された。 2008年4月からは、生協法の改正によって貸付事業として位置づけられ、福岡県との協働事業として進めちれている。

そのため現在では、グリーンコープ生協の組合員だけでなく、福岡県民の生活を守るためのセーフティネットとして機能している。グリーンコープは福岡市のほか北九州、直方、久留米の4ヵ所にも相談室を設けており、九州では福岡県以外にも、熊本や大分、そして海を渡って山口県でも同じような取組みを推進している。グリーンコープ生協ふくおかのセーフティネット貸付は、生活再建というより「生活再生」のイメージである。というのも、そこに、借金苦のなかで壊れてしまった人間としての自尊心の再生、家族関係などの人間関係の再生、安心できる日々の生活の再生、経済生活そのものの再生といった、地域社会のなかで人が生ぎていくうえで必要な生活の機能を十全に再生させていきたいという願いを込めているからである。

「お金の学校くまもと」の独自システムとは

お金の学校では独自の家計管理支援プログラムを開発し、多くの相談者に実践してもらっている。第1段階は、レシートをノートに貼り、使ったお金を記帳することを4ヵ月間繰り返す。これによって家計管理の基礎を身につけてもらう。つまり、初めはレシートをノートに貼り、その日に使ったお金を記帳するだけ。これを毎日続ける。ただし、このとき、ちょっとした日記もつける。これによって領収書などを保管する習慣、記帳の習慣を身につけるのだ。1週間続けたら、費目ごとに支出を振り分ける。これを1ヵ月続け、自分が何にどのくらいお金を使っているのか大まかに把握する。

1ヵ月の記帳の後、問題点を整理し課題を考える「振り返り」を行う。次のステップでは、前に明らかになった課題をクリアすることを意識して生活する。これを繰り返しながら、数字を読む習慣や収入の範囲で暮らす習慣も身につけて、生活の再生を目指す。お金の学校くまもとのカウンセラーが、このプログラムのなかで定期的に面談する。記帳を確認し、生活費の平均的金額などを参考にして、本人と一緒に問題点を整理し課題を明らかにしていく。これによって、記帳が続かない、問題点や課題がわからないといった、自分1人で家計管理させられていたときに感じていた不安や問題点を解消ないし軽減して本人の自覚を促す。

このように、あくまでも指導ではなく、支援という視点で取り組んでいるところに特徴がある。政府の多重債務者対策本部がまとめた「多重債務問題改善プログラム」は、「あるべき生活設計や生活信条に関する教育・啓発に取り組む」ことを提言している。これは計画的な生き方、個人的にも社会的にも責任が負える生活の価値観、理念(生き方)を意味する。そのような力を身につけるための消費者教育を、お金の学校くまもとは少ないスタッフで多面的に展開しているのである。

お金の学校くまもと

熊本県内で広く活動している消費者教育NPO法人「お金の学校くまもと」は、カウンセリング事業にも積極的にかかわっている消費者団体として、最近では全国的にも注目を集めている。ここで、少しばかり紹介したい。お金の学校くまもとは2004年5月に設立された、消費者教育のためのNPO法人である。お金の学校くまもとでは「お金の教育」を重視している。お金の教育とは、「お金にふりまわされず、お金とどう付き合うのか、どう生きていくのかを考え、そのための力を身につけるもの」である。お金の教育は、消費者教育の重要な領域となっている。

たとえば小学校、中学校そして高校に出かけて、子供たちに直接語りかける。それも一方的に話すだけでなく、子供たち自身が体験を通して学んでいけるような教材を開発し、プログラムを進めていく。さらに教員の研修にも関与して、授業のなかでお金の教育を進めるうえでの具体的イメージをもってもらうようにしている。つまり、なるべく一方的な講演方式ではなく、体験型(ワークショップ・参加学習型)になるような工夫が凝らされている。同時に、成人への消費者教育にも取り組んでいる。

企業の労務管理担当者が多重債務問題を多角的に理解するための研修会、商工会やJAと提携しての研修会、さらには育児中の母親や1人暮らしの高齢者などを対象とした公民館単位の研修会も企画している。 2008年度の実績としては、講師派遣30回、その受講者は累計で3,000人にのぼる。趣旨に賛同した市長がリーダーシップをとって、人吉市では市職員全員に対する研修会を実施した。お金の教育の中心には、家計簿をつけることの大切さがある。子供たちには小遣帳をつけるこどの大切さを強調し、大人には家計簿をつけることによって、自分と自分の生活を知る、振り返ることができることの大切さを強調する。