記事一覧

借金の整理は必ずできる

わたしは相談者に対して、まず次のように問いかけている。「あなたは、たくさんの借金を抱えて払いに行き詰まっていながら、その日暮らしをしていませんか? 借金支払のために借金を重ねていても、いつになったら終わるのか、見通しはまったくありませんよね。いつまでも高い金利を支払わなくてはなりませんし、元金はちっとも減っていないのですから」そして、「借金の整理は必ずできます。まず、このことに確信をもつ」ように訴える。そのためには、次のことが必要である。「第一に、借金を全部書ぎ出し、全部を解決すること」「第二に、モノにこだわらないこと」「第三に、家族とよく話し合うこと」肝心なことは、早く解決することより、完全に解決することである。

時間が多少かかっても、心身ともにスッキリして人生を新しく再出発できることのほうが大切だ。解決する方法はいろいろある。必ずしも自己破産申立しかないとは限らない。いずれにせよ、借金を抱えてきた頭のなかと生活をきちんと切り替えることなしには、決してうまくいかない。いくら周囲の人が心配しても、当の本人がその気にならなければ、結局、一時しのぎで終わってしまいかねない。いくら解決のために大金を投じてみても、貸金業者などを喜ばせただけで、虚しさだけが残ってしまうことも多い。「せっかく手にしたマイホームだから、なんとかこれを確保したい」「いまのマイカーだけは手放したくない」「ピアノだけは子供のために残しておきたい」「家にある家財道具には愛着があるので、みんな残しておきたい」。

それぞれ、もっともな心情である。普通なら、それでよいだろう。しかし、たくさんの借金を抱えてしまったからには、いったんはモノに対する執着心を捨て去り、生まれ変わったつもりで裸になって新しい人生をスタートする。このように頭を切り替えるべきだ。モノにこだわると、たいてい支払に無理が生じて、生活がまたもや行き詰まってしまいかねない。生活を立て直すためには、家族の理解と協力が不可欠である。家計を一本にまとめて支払と生活費をそれぞれ分担する。このとき、金銭的な援助を受けられずに精神的な気持ちの支えになってもらうだけのこともあるかもしれない。それは仕方のないことだ。

貸金業協会による債務整理の問題点とは

貸金業協会による債務整理の問題点に関しては、愛媛県のそれについて前出の村上勝也弁護士は次のように指摘している。

①利息制限法による引直し計算をしない。

②取引履歴を業者に開示させていない。

③貸金業協会の会員の債務しか整理の対象としない。

④債務整理め手続はいろいろあることの説明がなされていない。

⑤公正な第三者の関与がまったくない。

⑥保証人を立てることを強要している。

⑦債務整理の内容を決してほかに漏らさないという誓約書を入れさせられる。

⑧返済が滞ると、当初の条件に戻るという不安定な条項が入っている。これは消費者契約からみても、著しく消費者に不利益な条項であるといわざるをえない。

なるほど、貸金業協会による債務整理については、それがはたしてカウンセリングといえるかどうかを含め、そのままでは看過できない大きな問題点があるといわざるをえない。JCFA(日本消費者金融協会)金銭管理カウンセリング事業団に関しても、その実態が広く知らされていないこともあり、同じように中立性・独立性についてはいささか心配であうた。

しかし2008年5月のJCFA総会で、同事業団の解散が正式に決定した(日本金融新聞2008年6月10日号。記事によると、貸金業法の本体施行に伴い、①日本貸金業協会が発足し相談センター事業を開始したこと、②JCFAの会員数減少、を解散の理由としている。弁護士法の関係で債務整理はできないため、アメリカ流の心理的カウンセリングを中心に行ってきたところ、1997年9月以来、7万7,000名を超えるアクセスがあり、初回面談者数は6,409名、継続面談の実施数は5,847回に及んだという)。

クレジットカウンセリングをめぐる日弁連の見解

内閣が設置した「多重債務者対策本部」の発足にあたって、日弁連は改正貸金業法成立・公布直後の2006年12月22日、要望書を提出した。このなかでクレジットカウンセリングについて触れている箇所を抜き出すと、「多重債務者に対する債務整理・家計相談の機関は公正中立であること」と述べている。その理由として、「生活再建のためには債務整理が不可欠であるので、法定金利での引直計算による債務の圧縮と過払金の回収の2つが行われることが必須だ」としている。

そのため、日本クレジットカウンセリング協会については、過払い金の請求は行っていないことを理由として「行政が紹介する専門のカウンセリング機関とすべきではない」とする。たしかに「債務の圧縮と過払金の回収」も大切なことではあるが、それをしないからといって同協会はいけないと決めつけるのには大いなる疑問がある。日本クレジットカウンセリング協会は弁護士とアドバイザーの2人1組で対応しているが、それは生活再建にあたって家計管理の重要性を認識しているからである。

日弁連の前記要望書は生活再建の要因の1つであってすべてではない「債務の圧縮と過払金の回収」にばかり目を奪われ、家計管理のほうになんら目を配っていないところに問題がある。さらに、貸金業者の業界団体が独自に行うカウンセリング業務については、それが貸金業法(第32条8号)で法定化されたことをふまえて、「債権者側による債務整理との公正中立さに疑問が抱かれる」としたうえ、「公正さを確保する観点から、債務整理は弁護士会等へ紹介する必要がある」としている。

日本クレジットカウンセリング協会の具体的活動内容

日本クレジットカウンセリング協会で解決を目指す取組みは、すべて無料であり、本人の負担がない。つまり、同協会のカウンセリング事業はクレジット業界の負担である。そのため、貸金業協会が現在も行っている相談業務と同一視されて、「回収のため」と非難されたこともあった。しかし、返済できる限り返済していくということは本来、何の問題もない。それどころか、本人の人間としてのプライドを守り育むという積極的な意義もある。相談・援助が行われているのは東京(新宿区)、福岡、名古屋、仙台、広島、そして2009年から新潟、静岡である。いまなお大阪をはじめ近畿地方で実施されていないのは不思議なことである。

それにかわるものが近畿地方にあるとは考えられない。この協会によるカウンセリング事業は全国的にあまねく実施されるべきであろう。実は、日本クレジットカウンセリング協会によるカウンセリング事業については、わたしもメンバーの一員である全国クレサラ対協のなかに強硬な消極論があった。すなわち、「いわゆる43条問題がクリアされない限り、新しいカウンセリング専門機関の設立には反対する。多重債務者更生のために、無料の相談窓口がひとつできることを歓迎するという態度はとるべきではない。むしろ、多重債務者救済実務に混乱をもたらし、全体的な債務者救済水準の引き下げにつながることになる」という理由である。そして消極論者は、「業者や行政がカウンセリングや消費者教育の名のもとに、何を行おうとしているか見極めなければならない。

そうでないと、消費者の利益にならない」としていた。そもそも、消極論者は「借り手責任論に与しない」と宣言する。経済構造に真の原因があり、貸し手にこそ責任があることを当然と考える。業者側からの発想によるカウンセリングや消費者教育には、眉に唾してかからねばいけないと強調した。しかし、このような貸し手責任、借り手責任といった単純な二分論で現実が動いているものではないとわたしは考えている。多様な現実に対しては、多様な対応こそが求められている。この協会がしてきたカウンセリング業務の実績は否定されるべきものではない。

日本クレジットカウンセリング協会

日本クレジットカウンセリング協会は、債務の返済が困難な状態に陥った人の生活再建と救済のために、日本クレジット産業協会(当時)などクレジット業界の寄付によって1987年に設立された財団法人である。日本クレジットカウンセリング協会が展開しているカウンセリング事業については、日弁連が深くかかわっている。弁護士と消費生活アドバイザーが現場で熱心にカウンセリング事業に取り組んでいる実情をつぶさに知り、その熱意と能力に敬服させられた。

この協会が受けている電話による問合せ・相談は年間1万件に近く(ただし、2006年度の1万2,417件から2007年度9,947件、2008年度8,070件と最近は減少傾向にある)、弁護士会など他機関へ紹介3,836件(2008年度。以下同じ)、アドバイザーによる電話相談・助言4,234件、面談によるカウンセリング1,568件、うち1,005件について任意整理援助、357件について破産・個人再生申立のため弁護士会に紹介した。福岡センターの状況を少し紹介する。

福岡県弁護士会が推薦した弁護士12人を委嘱し、7人の弁護士がそれぞれ決まった曜日・時間帯(原則として火・水・木・金曜の10~13時の間)に隔週で交替して従事する。なお、臨時対応のため、弁護士5人が待機する。また、消費生活アドバイザー4人が週に4~5日、終日勤務して対応する。 2008年中に受けた電話相談は680件、うちカウンセリング受付件数は276回で、初回の面談カウンセリング実施総数は232件だった。

前記232件のうち任意整理168件、弁護士会の相談センターの紹介29件、相談助言・保留等35件となっている。なお、過払い金返還請求についても弁護士会の相談窓口を紹介した。弁護士とアドバイザー・カウンセラーが同時に話を聞くことへの抵抗も、弁護士会の内部にはあった。しかし生活再建に重点を置いた話になると、毎月の家計収支表を前にして生活をどう切り詰めるか等の点は経験豊富なアドバイザーに任せたほうがよい。いまでは、あまり問題になっていない。

裁判官のカウンセリングのかかわり方とは

裁判官がカウンセリングについてどのようにかかわるのかについて、次のような指摘がなされている(北洋純一判事「夫婦の倒産事件における支払い不能とそのおそれについて」『判例タイムズ』1280号)。「裁判官は、公平公正な立場から、適切な調整を行う必要がある。しかし、この職権行使は、民事再生法の中心的理念であり、破産法の一つの理念である債務者の経済的更生の見地から適正になされる必要があるのである。

それを越えた過度に家族教育的な見地からの行使は本来期待されていないはずであり(裁判官が家計アドバイザーとしての役割を担っているものではない)、また、望ましいものとも言えまい」「夫婦は、生活上の債務を弁済することについて一種の自律的裁量権を有していると解することができよう。したがって、裁判所は、上記の自律的裁量権を侵害しないように、その判断を尊重する方向で職権を行使すべきである」「申立人からの情報は断片的であるうえ、正確性に疑問がある場合も多い。

また、一般的に見て、裁判官は、フィナンシャルプランナーなど家計診断を行う専門的資格は有しておらず、そのような判断を可能とする十分な知見を有しているとは言えない」数年前まで、福岡地裁をはじめとして全国のかなりの裁判所で、破産手続のなかで集団審尋がなされていたが、いまや裁判所の手続のなかで教育的要素は期待されるべきではないとの考え方から、ほとんど実施されていない。その結果、今日では多重債務を抱え支払不能に陥った債務者が自己破産申立をしたとき、その多くは裁判所に一度も出頭することなく破産手続が開始し、まもなく免責が認められている。